番外編 1

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厚い胸板を隠すシャツを握りしめながら、舌で促され、ほんの少し開いた隙間。 ねじ込まれるような熱い舌が深いところを探り始めると、まだなにも知らないはずなのに漏れだす吐息が止められない。 「…っ、せ、ん、」 「黙って」 交際を申し込むようなハッキリとした告白はなかった。 ノーは選択肢として見せてくれない人。 そのときは、イエスすらなかった。 「っ…あ、の、せん…せ?」 「移動するよ?」 「え?!おろしてください!重たいです!」 「分かった」 厚い体にもたれ掛かることしかできなくなると担ぎ上げられ、やっと見ることが出来た室内は明るさ同様、生活感も薄い部屋だった。 広くもなく、家具も少ないワンルームだ。どこへ運ばれていくかも分かりやすい。 整頓されていたから生活感が出ていないわけではない。彼女が他にもいたから、セカンドハウスというやつだ。当時は知るよしもなかった。 「はい、降ろしたよ」 靴もはいたそのまま、力の入らない体はベッドに横たえられる。 汚してはいけないという変な理性で、足は抵抗する為に立てるどころか、むしろ突っ張った。さぞかし股がりやすかったことだろう。 「キミの恋人の名前って『先生』なんだね、知らなかった」 「こ、い、びと?」 「違うの?じゃあ恋人でもなんでもない男の家に来てキスされて、悦んでベッドに寝転ぶ…貞操観念のゆるい女なんだ」 「え?!ち、ちがっ!」 「エロい顔してた。可愛い見た目でやらしい女。ああ、淫乱か?好色か?」 「違いまっ…、んっ!」 こちらの返事に被さるほど、先生から放たれる言葉のスピードは早い。
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