番外編 1

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「1回言えたんだ、もっと言えるよね?」 そういう授業だ。 お決まりだった台詞に現実を見かけた。 それでも組みしきながら見下ろす元生徒の流されやすさなんて、なにもかもお見通し。 耳に囁きを受ければわけもわからないまま皮膚が泡立ち、冷静になりかけた内心は妙な汗に溶けて肌をつたう。 こちらからは憧れだけが内にある関係しか築けていない相手に、どう頼っていいかも分からない。 繋いでくれそうな手もやってこない。何の暖かさも匂いもしない枕を握りしめ続けた。 「れいさん、好き、れいさ、すき、れっぃさ、ぁ?!す、きっやぁぁ?!」 「…その次は…?」 見下ろしてくるのは憧れの人ではなく『好きな人』。誘導されるがまま、痛みがなくなるという言葉を信じてすがることしか出来ない。 言わせる為か、キスもなくなっていた。 目の前にいる人が『好きな人』に見える眼鏡をいつの間にかかけられたのだ。 引かない涙で視界はよくないはずなのに、幾度となく繰り返す言葉に、恋人と行為をしているのだという秘密の匂いに染まっていく。 「だ、いすき?」 「青春っぽいね」 「すき、の…つぎ?」 憧れなんて、捨ててしまえばよかったのか。 「…あいして、ま…す」 「うん、そうだね。よくできました。ご褒美だ」 誰が喜ぶご褒美? 答えは絶対に私じゃない。
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