番外編 1

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そのあとすぐ耳元で囁かれた言葉に優しさなんてひとつもなかった。 「もっと奥まで楽しもう」 「ひゃぁっ?!」 「耳弱いね。まだ、半分も入ってないんだけど…」 「そんな、あ?!むり、入らな…っ!…やめっれいさん、すき!…すき!」 「ハジメテはそんなものらしいよ」 耳をくすぐってきた一言まで、冷たかった。 どん、と一息に足の付け根同士がぶつかる。頭の芯を痛めそうな短い悲鳴を上げて見開いた目には、片方だけ上がった満足そうな口の端が見えた。 全て受け入れても尚続く痛み。 教えられた意味のない呪文を必死に繰り返す自らの声に、冷たい声色はかき消されて聞こえなかった。 聞こえていたところで…『そうなんですか』くらいの返事しか出来なかっただろう、そのときの自分では。 「…はぁ…可愛いっ…好きだよ、多香子」 「はいっ……いっ…れいさん、すき。すき…」 「っ…そろそろ、出す」 「れいさん、すき…れいさんがすき、れいさんが……あっ……!」 ハジメテから、避妊具の使用などなかった。 避妊と言えない避妊の方法で、はじけたものはヘソで受けとめた。 「頑張ったね」 指すら動かすことが億劫な体。 行為中嫌がらせのように追い詰めてきた態度とは一転、労るように抱き締めてくれる恋人を見つめる目は半分も開けられない。 いつの間にか、眼鏡はコンタクトレンズになっていた。着けていることを忘れる自然な装着感。 「れいさん、すき…シアワセ…」 裸眼を覆う異物を受け入れていた。
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