番外編 1

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タネの空気を抜く、ひとりキャッチボールのような作業にも思いの丈をぶつけながら小判型に成形し、お皿には朝にも食べたサラダの作りおきを盛り付け終えた。 うっかり忘れていた炊飯は、慌てて『お急ぎモード』でスイッチオン。 タネ作りが手早く終わったおかげで、なんとか予定通りの時間に帳尻を合わせられた。鼻唄を歌いながらエプロンを外し、仕上げは玄関前に待機すること。 毎日待ち構えているわけじゃない。今日は特別に、いつもより涼しい足でお出迎えだ。 まもなく鍵の開く音。 予想時間、ぴったり。 「ただい…ま」 驚いてる驚いてる。 こちらを眺めてくる目は上に下に往復を繰り返しながら見開かれ、そのあと柔らかく細まった。 機嫌は悪くなく、いつも通りであることは扉の開き方ですぐ分かった。 「おかえりなさーい」 「どうしたの、それ」 「罪滅ぼしです」 「殊勝な心がけに感心。サイバーテロには苛立ち」 「サイバーテロ?」 撮影で着たショートパンツとシャツを、気に入ったからといって購入させてもらっていた。 いつもは短くてもハーフパンツ程度のルームウェアか、足首で何度も折り返された裾がダボつく彼のスウェット。 それらから考えると、今の丈はかなり短い。
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