番外編 1

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靴も脱がないまま抱き締められルームウェアごしに触れる上着は、まだ外の空気をはらんでひんやりとしていた。狂わされたタイムスケジュールを取り戻すために必死だった体には心地よい。 日が落ちてからこんなに外は冷えたのか。 車を使うことが多いのに、バイクで出勤していたことすら厚めの上着で今知った。慌てて帰ってきたおかげで駐車場まで気にかけていられなかった。 「弁当ありがとう。どれも謝罪の言葉が貼り付いてそうなおかずのラインナップで」 「…バレたか」 「お腹すいた」 「今日はハンバーグです!お風呂あがったらすぐ食べられるようにしておくからね」 「晩ご飯まで謝罪が付いてる」 「たくさん甘やかしちゃうよ!今からは王様気分でいてください」 「王様というよりは…」 ほんのり冷えた唇がおでこに触れ、音をたてた。 「新婚の夫のつもりで入ってくるよ」 慣れない単語に何度も瞬きしては見上げる。 この目がカメラであれば。 瞬きに合わせてそのとろけそうな笑顔を連写できたのに。 「…上着と荷物を運んでおくサービスつきです」 「風呂に一緒に入ってくれるオプションは?」 「お風呂上がりにすぐご飯を提供できる新妻でありたいです。ご協力願います」 「大抵の王様には甲斐甲斐しく入浴を手伝ってくれる人がいるはずなんだけど」 「そろそろハンバーグ焼こうっと」 キッチンに逃げ込むと、後ろからは小さな笑い声。結局、荷物も上着も自分で運んでから浴室へ入っていった。 やはり『逃げるが勝ち』はベッド以外では通用する。
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