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「触られた礼?」
「え、ちが…!…あっ」
「礼ならしてきたから、しなくていい」
「お礼…?」
「帰りに1発蹴ってきた」
「わざわざ会いに行ったの?」
「煩悩丸出しの連絡がとまらなくてスマホがバグ起こしてた。内股がどうのこうのって…鬱陶しい」
『仕事の前日じゃないなら、からかってもいいよね?』なんて声がウィンクと共に飛んできそうだ。
撮影の後また、過ぎたからかいをしてきたらしい。本当に仲がよろしいことで。
「でも、いつもと同じ時間に帰ってきたよね?」
「スマホは死んでたからバイクでとばしたんだ。この服似合ってるし…嬉しいんだけど」
声が一層低くなる。
「調子のってたタレ目を思い出した。誰かに言い逃げされたことも」
「傾向と、対策、…っ」
「勉強熱心だな」
「知ってたら絶対痕つけたもん!」
「1ヶ所だけだ」
「ほぉら、やっぱりつける」
「濃いぃーやつ」
「完璧な傾向分析による対策だった!」
「冗談だよ。聞いててもつけない。大人だから」
「大人はカバンを2回も隠したりしません」
「朝起きたら子どもになってたんだ。夜は大人だった」
忘れたの?
指に絡んできた左手がそう問いかけてくる。
忘れるわけないよ
互いの薬指の指輪を感じながら何度も握り返して伝える。簡単にはほどけそうにないほど絡まってしまった指に、夜に見上げる彼の吐息を思い出す。
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