番外編 1

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「触られた礼?」 「え、ちが…!…あっ」 「礼ならしてきたから、しなくていい」 「お礼…?」 「帰りに1発蹴ってきた」 「わざわざ会いに行ったの?」 「煩悩丸出しの連絡がとまらなくてスマホがバグ起こしてた。内股がどうのこうのって…鬱陶しい」 『仕事の前日じゃないなら、からかってもいいよね?』なんて声がウィンクと共に飛んできそうだ。 撮影の後また、過ぎたからかいをしてきたらしい。本当に仲がよろしいことで。 「でも、いつもと同じ時間に帰ってきたよね?」 「スマホは死んでたからバイクでとばしたんだ。この服似合ってるし…嬉しいんだけど」 声が一層低くなる。 「調子のってたタレ目を思い出した。誰かに言い逃げされたことも」 「傾向と、対策、…っ」 「勉強熱心だな」 「知ってたら絶対痕つけたもん!」 「1ヶ所だけだ」 「ほぉら、やっぱりつける」 「濃いぃーやつ」 「完璧な傾向分析による対策だった!」 「冗談だよ。聞いててもつけない。大人だから」 「大人はカバンを2回も隠したりしません」 「朝起きたら子どもになってたんだ。夜は大人だった」 忘れたの? 指に絡んできた左手がそう問いかけてくる。 忘れるわけないよ 互いの薬指の指輪を感じながら何度も握り返して伝える。簡単にはほどけそうにないほど絡まってしまった指に、夜に見上げる彼の吐息を思い出す。
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