番外編 1

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せっかく出来立てを食べて欲しくて頑張ったのに。 レンジで温めることになってしまったハンバーグ。まさか自分の機嫌が悪くなっているとは朝には想像していなかった。 予想通りの表情と感想で平らげ『お詫びにコーヒー淹れるから』と向かいからご機嫌をとられると…それで許してしまう自分も簡単過ぎてどうかと思う。 ハンバーグに限らず、彼に伝授したメニューはどちらが作っても同じおいしさになった。 なのにコーヒーだけは味が違う。 理由を知りたくて彼が淹れるたびに隣から動きを見つめてみても、未だに違いは分からない。 「どうしてかなぁ」 「花に水をあげるように注ぐ」 「動きは似てるけど…」 「じゃあ飲んでくれる人のことを考えながら淹れるといい」 「なら、やっぱりおかしいよ」 その秘訣で言えば、自分が淹れた方がおいしくなってもいいはずだ。 「紅大のことしか考えてないのに」 朝はシャワーのノズル音で、ぴったりに淹れられるタイミングが分かる。 彼が浴室に入ってからは聞き耳をたて、水音に神経をほぼほぼ向けている。今日は聞き逃してしまったけど。 夜は本を読む綺麗な姿勢がソファの背もたれに甘えるようになったとき。本人いわく無意識だという、こちらに伸ばされてくる手から逃れるようにキッチンに向かえばいい。 カップを持って体を寄せれば『ちょうど飲みたいと思ってたんだ』と、本を閉じてくれる。
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