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「それで変だったのか?」
「…もうひとつある」
「全部吐け」
「先週女の人とふたりで…食事でもした?」
「してないよ」
遠くからでも見間違いを疑える容姿じゃないから、颯は嘘をついていないはず。シラを切られたことに胸の端が焼けた。
再びサーバーに注がれる湯で染み落ち、深さを増す苦さ。なにも返事ができないまま、時間をかけて溜めたものを一瞬でぶちまけてしまいたくなる。
「颯が、見かけたって」
「あいつは本当に余計なことしかしない」
「余計なこと?全然、そんなことない。…ひどい」
「言わないと駄目か」
「このままだと甘やかしてあげられない」
「…りっちゃんとコーヒー飲んだだけだよ」
りっちゃん。
頭の中で何度も、突然現れた友人の名前がこだまする。安堵していいのか、ふたりの接点が分からずとまどっていいのか。
なんだ。なぁんだ。りっちゃんかぁ。
「もー!早く言ってよ!」
「もちろん、偶然会っただけ」
「偶然。ふーん」
「妬いた?」
「妬きました!」
「敬語」
「妬いた!」
「いつかとおんなじ言い方」
「すぐ教えてくれても、良かったよね?」
明らかにわざとな気の引き方をしておきながら『偶然』と爽やかに言ってくる人と話した後だ。その響きに面白くなさと不信感も増す。
りっちゃんからなにも連絡がないこともおかしい。
『味は覚えてないけど超絶イケメンとティータイムは至福でしかなかった!』とか、踊り出しそうな文字で報告を兼ねた連絡がありそうなのに。
「30分くらい一緒にお茶してもらっただけだし、言わなくてもいいかと思って」
「ふーん。紅大から誘ったんだ」
「…まあ」
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