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「珍しいよね?」
「…ずっと前からご馳走してあげたかったんだ。コーヒーとケーキぐらいだったけど」
「どうして?」
「あーやっぱりこうなった。だからわざわざりっちゃんにも口止めしたのに」
あのタレ目、と呟いたあと。
私が初めて参加した同窓会の日。無茶な聞き出し方の最中にヤキモチを妬いてくれて嬉しかったからだと、気まずそうに教えてくれた。
親しげだったのは、私の話で盛り上がったからだと。
「こちらでお許しいただけませんか」
カップに注いだコーヒーを渡してくると、一礼。ミルクに砂糖も入った明るい茶色は、湯気をたてながらまだ渦を巻いていた。
「…だってあのとき鼻の下伸びてたもん」
「俺の鼻の下は婚約者以外には伸びない」
「伸びてた!こうやって!だらしなく!」
無理やり伸ばしてみたところでイケメンに変わりはなかった。わざわざやりやすいように屈んでくれるあたり余計に腹が立つ。
一体どこを、どうすればこの魅力は陰るのか。
「りっちゃん可愛いもんね!私と違ってハキハキしてるし!」
「それ以上伸びない。痛い」
「あのときはまだプロポーズされてないから婚約者じゃなかったし!」
「すみません。訂正します」
「どうぞ!」
「俺の鼻の下は多香子以外に伸びません」
「私とりっちゃん以外には、でしょ!」
「はいはい、ヤキモチ可愛い可愛い」
大した距離の移動じゃないのに繋がる手。
カップをお供に言い合いしながらソファに並ぶ。
重なるように触れる肩が愛しくて、目が合うと同時に噴き出した。弾む声は止まらない。
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