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鈍感かどうかの言い合いは決着がつかないまま落ち着きを見せた頃、底が見えたカップをふたつまとめてキッチンに運ぶ。
戻るとすぐ招かれたのは、長い足の間。後ろから包んでくれる薬指の輪に触れる。
日付が変わるちょうどに元に戻そうか、なんて話をする声が耳元で跳ねてくすぐったい。
「明日は時計を買った店に行きたいんだけど」
「なにか買うの?」
「オーダーメイドの指輪を作れるアクセサリーショップを兼ね始めたみたいだから。そこで結婚指輪、作るのはどうかなって」
「うん…うん!すごくいい!嬉しい!」
「ついでに時計のサイズを直してもらおう。緩んでるだろ」
気がついてくれていたことに、鈍感のレッテルをなかなか剥がしてくれないことは許してしまえた。
せっかく改善してきたと思ったのに、高校時代の話をしたことで彼の中の私のイメージが超鈍感に戻ってしまった。
りっちゃんには今度、小さな結婚式の写真を見せるときにでも愚痴を言わせてもらおう。
「指輪…出来上がったらすぐつけちゃう?」
「いや、正式な日から。勉強始めるきっかけに、ご褒美を目の前にぶら下げてみようかと」
「ご褒美がなくたって、ちゃんと今日から頑張るつもりでした!」
ローテーブルに積まれた塔から1束、資料を手に取る。開いてすぐに、1週間前に初めて中を確認したときと様子が違うことに気がついた。
貴雪さんがパソコンで作ってくれたという、露利家に関係する人名の羅列。その全員に、手書きでコメントがつけ加えられていた。
『キリンに似てる』
『片足じゃ立てないフラミンゴ』
『目が大きすぎる象』
『たてがみにパーマをあてたら失敗したライオン』
動物園に嫁ぐのだろうか。
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