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「ひとりじゃないって実感させてくれる花の名前。二文字。なんだと思う?」
遠くない未来に名乗ることになる苗字。その中にある花の名を囁けば、正解かどうか教えてくれる唇が降りてきた。
ふたりで重なるように咲き誇れるのなら。
受け止めてくれるこの腕の中なら…いやらしくも花開いてあげて、いいか。
「どうして泣くの」
「ごめ…っ、言えない…っ」
「隠し事は」
「今はっ…!」
焦点は合っているはずなのに、大好きな人の顔がボヤけてしょうがない。どんな表情か見えなくて、不安で、助けを求めるような声だった。
「紅大のことだけ、考えてたいから…お願い…っ!」
手首に意識がとられそうになるのを堪えた。呼吸が頬を撫で合うほどの距離。そちらを少しでも見てしまえば悟られる。
ハジメテがどんな風だったかなんて知らないくせに。似ているのにまったく似ていない言葉に、体温に、愛情に、全てが上書きされてしまった。
本当の幸せしかないふたりのベッドで、他の男の名前なんか出させないで欲しい。
「…それがいいな。また枕を落とさなきゃならなくなる」
利き手の手首を撫でてくれる。
悟られてしまったらしい。
小さいスピンの傷跡ひとつ、本人より気にし続けてくれる。
小さい男と言われようと、こんな女ひとり、どんなことにでも妬いてくれる彼が好き。
大きな傷ひとつ。
本人より痛そうな顔をしながら、痛みを共に抱え込んでくれる優しい人と、これからを歩む。
「そういえば昨日、枕…」
「勉強からは逃げ続けられるし。颯からうざったい連絡も止まらないし。枕にすがられでもしたら…本当に動けなくなるまでしそうで」
「枕に、すがってる?」
「よく握りしめてるけど。無意識か」
「…知らなかった」
意識して握った記憶があるのは、あのハジメテの日だけ。どうやって相手にすがればいいかも分からず、さまよった手が触れたものを力いっぱい握りしめていた。
気づいていなかった傷、たくさん。
知らない間に癒してくれる人。
「体のどこでもいい。俺にすがって?お願い。どんなことでも全部欲しいんだ。めんどくさい男で悪い」
「そんな!めんどくさいこと、ないよっ!」
「ずっと両手を繋いでてもいいんだけど…出来れば片手で。いろんなところ、触れられなくなるから」
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