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全裸の女が、鏡の中で微笑んだ。
熱いシャワーがつたい落ちる体はまだまだ頼りなく、浮きでた足の骨が鶏を思わせる。
食用鶏なら、ひと目で出荷を見送られるだろうな。
飼われ慣れた考え方に、また笑う。
骨まわりの肉ほどうまい。
…らしい。
1ヶ月前、どれほど美味なのか真面目に説いた彼は、痩せた同居人を励ましたつもりだったのだろうか。
「もしかして私、非常食として飼われてる?」と問えば「さすがにもうちょっと肥えた方がいいな。ほら食え」と、食べかけの手羽先を差出してきた。つい受け取ったものの食べる気にならず、そのまま彼の口に突っ込んで返した。
「骨しか残ってないじゃない」
「ここからだ。よく見てろ…ほら」
慣れた手つきで細骨を開き、隙間の肉を食らい、軟骨までしゃぶりつくした。
唇を拭った親指と悪い目つきがセクシーだった。
迷わず引き寄せ、彼の口の中を貪るように食べた。
「ほんと。まだまだ味わえたわ。御馳走様」
「お、おお。いい出汁も、とれるらしいしな…」
髪を鷲掴んで乱暴に犯したオマケに、彼の艶る親指に両手を添えて舐れば、呆気に取られながらも視線を外せない様子がまた、美味しかった。
今ではもう、初な反応をしなくなってしまった愛しい餓鬼との生活。痩せた体にほんのり、申し訳ない程度についた贅肉をみつけ、ついひとりで笑ってしまった。
幸せで嫌になる。
鏡の中、緩みきった表情にシャワーを浴びせた。
蛇口全開のお湯の勢いは暴力みたいに痛いだろうに。
微笑む女に、痣は増えない。
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