15人が本棚に入れています
本棚に追加
ケース4️⃣ 前世遺憾
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「すいませ〜ん。」
晴れた午後のある日。
『タコ焼きハウス・エリーゼ』に来客があり、呼び声がする。
すぐに、店主の叶恵が店先に顔を出した。
見ると来客は、20歳代ぐらいの男女カップルである。
そこで叶恵は、すぐに気がつき疑問に思う。
「あれ? あなたたち、午前中もタコ焼きを買いに来てたわよね?」
そう言われたカップルは、男性の方はふっくらと太っていて、女性は痩せすぎているぐらい細い体型をしている。
叶恵は、タコ焼きを一度買いに来てくれた客の顔は、ほとんど覚えているのだが、このカップルは特徴的で印象が強かった為、尚更記憶に残っていた。
手足が枝ほども細い身体の彼女が、答える。
「そうです。午前中、タコ焼きを一パック買ったんですけど、ほとんど彼が食べてしまったので、もう一度買いに来たんです。」
「まあ、何回でも買いに来てくれるのは、私の方は嬉しいんだけど。」
叶恵が、嫌味っぽくニヤけながら言った。
「だから、最初に言ったじゃないか。僕は、一パックじゃ足りないって。」
彼女とは対照的に、まん丸と太っている彼氏が口を尖らせて不満を言う。
「まあまあ、もうイイじゃない。それより、何パック買うの?」
叶恵が、カップルをなだめる意味も含めて、話を進めた。
「えっと、私が1パックだから〜・・・、全部で、2パックで良いかな。」
細い彼女が言うと、太い彼氏が躍起になって言い含める。
「ダメダメ! 6パックだね。それぐらいじゃないと足りなくて、また来なくちゃならないよ。」
「そんなに、食べる〜?」
彼女は、少し呆れた顔で言った。
「食べるよ〜。足らないよ〜。」
彼氏は、自分のお腹をさすりながら答える。
見ていて、これ以上面倒臭い喧嘩に発展しそうな予感もあったので、すぐに叶恵が口を挟んだ。
「あ、了解〜! じゃあ、6パック焼くから。待っててね。」
そう言うと、いつものように手慣れた手つきで、タコ焼きを焼きはじめる。
太った彼氏は、携帯電話を扱いながら待ち時間を潰した。
彼女は、その横から携帯電話を時々、覗き込んでいる。
最初のコメントを投稿しよう!