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程なくすると、店先の辺りにまで、タコ焼きの美味しそうな匂いが漂いはじめる。
携帯電話に夢中だった太い彼氏は、鼻をヒクヒクさせて、その匂いに酔いしれるのだった。
「美味そう〜〜。」
「ほら、ヨダレが出てるよ。」
嫌そうな顔をする細い彼女。
そのうち、出来上がったタコ焼き6パックを両手袋に抱えて、そのカップルは立ち去っていった。
ピンポーン!
玄関の呼び鈴が鳴る。
それを押した後、じっと返答があるのを待つ貴志の姿があった。
呼び鈴の横壁には、『鬼切』と表札に書いている。
すぐに玄関ドアが開き、いつになくダンディな鬼切店長が顔を出した。
「よ! 早かったな、貴志。上がれよ。」
そう言われて、貴志は鬼切の家へと入っていく。
今日みたいに鬼切店長に呼ばれるか、或いは貴志自身が相談などがあって訪問してくるかの理由で、これまでに結構な頻度で訪れているのだが、貴志はまだ緊張を完全に拭いきれていなかった。
それは、自分の家と勝手が違うという事と、鬼切店長の家のオシャレで清潔感溢れる雰囲気が原因だったのである。
鬼切店長に居間に通され、いつもと同じソファへと腰掛けるのだが、気持ちにゆとりが出来るまでに毎回、時間を要した。
ソファに腰掛ける貴志を確認した後、鬼切店長は自家製レモネードを運んでくる。
貴志はまるで、高級ホテルで面接をされているかのように緊張するのだったが、時間の経過とともに落ち着き慣れてくれば、ここの家で過ごす事が大好きだった。
「ありがとうございます。」
鬼切店長にそうお礼を言って、レモネードを口に運ぶ。
自分の住んでいる自宅と比べて、作りやインテリアなど確かに違う部分があるが、同じ“住まい” というジャンルでは共通なはずなのに、これほどまでに気持ちの感じ方が違ってくるのか、と貴志は改めて思った。
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