みつけた・みつかった

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みつけた・みつかった

いつだったか、十二月二十八日。 病院の中はいつも通り忙しなく、救急車、点滴アラーム、ナースコールの音がBGMである。とはいえ、今日は皆の仕事ぶりは機敏で、どこか時計を気にしている。17時というゴールテープを時間通りに切りたいわけだ。 仕事を終え、佳愛は銀座にいた。 仲間達とこの一区切りを理由に集まるのだった。あくまで名目上の仕事納め、仕事納めが年明けだということも珍しくない。とにかく理由をつけて非日常を楽しみたい、それだけだ。 街には大小様々な規模のグループが繰り出し、お互いを労い、酒を交わす。赤ら顔で慰労の言葉を述べる上司と、話を聞いてない若者達。とにかく日本中にお疲れ様と言いたい日である。 次行くよね?お店どうする?なんて会話をしていた頃、携帯が鳴った。別で飲んでいた仲間からの誘いだ。断っていたのに酔いが回ってまた連絡してきたんだろう。近くにいる事が判明し、お店を後にした。 告げられた場所は地下のカラオケ店。我々世代の二次会あるあるだ。煙草の臭いと雑に並べられたグラスとワインボトルが出迎えてくれた。同じ職場とは言え、半分以上が初めまして。誘導されるままソファへ座った。コートも脱がずバッグを膝に抱えたままワイングラスを鳴らした。 「イケメン先生ね。見たことあるよ。」と、 化粧っ気のない、メンズライクな佳愛に第一声。コの字型のソファの頂点に靴を脱いで座った華奢な女性。これがみーとの初めましてだった。右手には電子タバコ。顔に似合わない仕草に衝撃を受けた。 カラオケボックスで良かったなと思っていた。特に会話も交わすことなく、その楽しい時間は過ぎていく。みーの視線を感じながら、仕事納めの夜は更けていった。 「じゃあお疲れ様でした。また病院で。」 そう言葉を置いて、佳愛はタクシーに乗り込んだ。 連絡先なんて交換もせず、次の約束もない。佳愛の中では、そんなもの必要ないんだと、根拠のない自信にあふれていた。
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