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第1話-②
ガチャリ、と音がした。
「来たぞー」
オコスケの声だ。その途端、ヤダロウは慌ててスマホの電源を切り、再びポケットに突っ込んで机の上の教科書に向き直った。
足跡が近づき、部屋のドアが開いた。
「よー」
オコスケはいつものしかめ面で部屋に入ってきた。小柄ながらやっぱり迫力がある。目力がもたらす印象は大きい。
後からワラゾーも現れた。大きなリュックを背負い、薄い笑みを浮かべている。でかい奴がでかい物を持っているとそれだけで強そうだ。笑い顔すらちょっと怖い。
「勉強してるか?してねーだろうけど」
オコスケは俺の向かいにドカと座り、ヤダロウを見た。
「してるよ!」
「じゃあその教科書の問題解いてたのか?」
「そうだよ!」
「お前図形苦手じゃなかったか?頑張ってるんだな」
ヤダロウの教科書を見る。例の図形のページだった。
「…そうだよ!褒めろよ!」
「よし、じゃあ一緒に解いてこうな、教えてやるから」
「…ふおぉ」と言い出したヤダロウから視線を外し、いつのまにか右前に座っていたワラゾーの方を向く。
「2人はどっかで合流したの?」
「うん、オコスケが商店街で買い物するって言うから荷物持ちしてたんだ」
「買い物?」
ワラゾーは降ろしていたリュックを開き、中身を出し始めた。ひき肉、キャベツ、卵。塩だのソースだのの調味料。
「これ冷蔵庫いるやつじゃねーか?」
「そうだよ。ここで入れさせてもらおうと思って」
「先に言えよ」
俺は苦い気分になった。
「俺の冷蔵庫の都合もあんだぞ」
「でも入れさせてくれるんだろ?」
声の方を向く。涙目で鼻をすすっているヤダロウの隣で、オコスケが少しだけ笑っていた。
「お前は優しいからな」
ため息をついた。完全に舐められている。1回ちゃんと怒るべきだろうか。そう思いながらも、一方では冷蔵庫の今の状態と、コイツらの荷物を入れる空間の事を考えていた。
オコスケがこっちに顔を少し近づけた。
「頼むぜ、セワハチ」
イラッとしたので、オコスケの鼻を強めに掴んでやり、言った。
「分かったよ、クズ野郎」
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