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第1話-①
「勉強したくない」
俺は顔を上げる。左前に座ったイケメンが遠くを見つめている。手元には教科書が広がっている。
「勉強は必要だよ?今も、これからも、生きていく為には絶対に必要だ」
イケメンが語っている。
「でもしたくない。めんどくさい。何もしたくない。」
少しずつ熱が入ってくる。
「やだ!」
そう叫ぶと顔を机にガン!と打ち付け、動きが止まった。
俺はそれを見ながら、
「イケメンは駄々こねてもそれっぽく見えるのずるいなぁ…」
と思った。
「どしたのよ」
しばらく待っても顔をあげないので、仕方なく話しかけた。
「………」
応えない。
「何?どっか分かんないの」
伏せた顔の高さに俺の顔を合わせてやる。
「………国語と数学」
「文理ダブルアウト」
「理科社会とかは分かるんだ!」
顔をばっと跳ね上げてイケメン……ヤダロウはこっちを見た。
俺はこいつの顔を見る。知り合って1年以上経つってのに、いまだにこの顔を見て驚くことがある。少しだけ吊り上がった薄い眉に、溢れるんじゃないかと思う大きな目、高い鼻、形の良い口。
「覚えれば良いものは大丈夫なんだ!でも国語とかは違うじゃないか!気持ちを読みとれって何だよ!僕は人の気持ちなんて分かんないぞ!」
「怪物っぽい」
感情丸出しの綺麗な顔と言うのは中々の迫力がある。言ってることも映画の台詞みたいに聞こえる。
「数学は公式覚えりゃ良いから何とかなるんじゃないの?」
「図形とか公式関係ないだろ!」
「あるよ」
「いやあれはセンスだ、出来る人は初めから出来るんだ」
僕は出来ないんだ!と上を向いて吠え始めた。少し面倒になってきたので、
「まああとちょっとでオコスケたち来るしさ、何かアドバイスもらおうよ」
なだめて鎮めようとする。
「そうだね!じゃあそれまで休む!」
とヤダロウは真面目な顔で叫び、ポケットに入れていたスマホをバッと取り出し、凄い勢いで指を動かし出した。
この前面白い面白いと言っていたパズルゲームをしてるのだろう。
それも図形なんじゃないのか?
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