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ぴた、と幸弥の動きが止まった。
幸弥の恋人は色崎舞奈という同級生で、以前から晃生も親しくしている。
それだけに、たった今展開された幸弥の迷演説には困惑を強いられていた。
「幸弥の彼女は、あの色崎だろ? 艶やかな黒髪の、学年きってのクールビューティで、成績も首席クラスだ。誰からも羨ましがられる才色兼備なパートナーがいて、今のは何のスチャラカぶりなんだ」
「スチャラカとは失礼な。まさにその彼女こそが問題なんだぞ。何しろ頭が良くて、色んな意識も高いからね」
「意識?」
幸弥が、がくりと肩を落とした。
「僕が色崎を含め、日本人の女性しか好きになったことごない、その見識の狭さが許せないんだそうで……近頃、説教されてばかりなんだ」
「……見識……か、それ……?」
秋の夕暮れが、次第に教室を染めてきていた。
■
翌日。
二人は教室ではなく、人気のない校舎裏で前の日の続きを話していた。
「幸弥、一応確認しておくが、色崎はお前のことが好きなんだよな?」
「そうだと思うよ。告白してきたのは向こうだから」
「それでなんで、色崎がお前に、女以外も好きになれないことを不満に思うんだ?」
「個人の恋愛と、普遍的な愛の自由は別なんだってさ」
なんのこっちゃ、と晃生が首をひねる。だが、結局思想家本人でないと理解できない感覚なのだろうと思い、深追いはやめた。
「幸弥、俺が心配してるのは、どちらかといえば色崎の方だ。今日、学校に犬を連れてきてたよな」
「ああ、うん」
「飼い犬というわけでもなさそうだったので――それでも普通は連れてこんだろうが――、俺から訊いてみたんだ。どうしたんだその犬? って」
「うん」
「そうしたら、『相性がよければ、これから私の彼氏になるかもしれないの。私、人か犬かで差別をしないから』だとよ」
「……うん」
視線を逸らす幸弥に、晃生が射抜くような視線を送る。
「幸弥、なにか俺に話してないことがあるよな?」
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