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その次の日、色崎舞奈が学校に引き連れてきたのは、黒い猫だった。それも、メスらしい。
さらに次の日は、ハムスターを連れてきた。性別は色崎も知らないらしかった。
週末を控えた金曜日、幸弥は昼休みに晃生を校舎裏へ呼び出した。
「晃生、僕はもう限界だ」
「まあな……。俺も、最早あの色崎には耐え難い。一応色崎とは友達だからな、見てられん。あいつが今日連れてきていた生物を見たか?」
「うん……。ヒトデだったね。昨日はゴカイだったから、ちょっとましかもとか思っちゃった」
「爬虫類をすっ飛ばしたからな。あの調子だと、植物に走るのも遠くないぞ。さすがに俺も見かねて本人に詰め寄ったんだがな、『生き物を差別しないで』と突っぱねられた」
幸弥がうつむく。
「もう僕、無理だよ。好きとか嫌いとか、男とか女とかじゃなくて、色崎っていう人についていけない。別れるよ」
「まあ待て。色崎から別れようって言われたわけじゃないんだろ? 今彼女が血迷ってるからって、結論を急ぐな。そのタイ人の女性についてだって、落ち着いてもう少しよく考えて……」
晃生が差し出した手を、幸弥がぱしんと払う。
「晃生は、やっぱり他人事なんだよ! 毎日毎日、聞いたことない神様の賛辞と宇宙言語みたいなお経を彼女から聞かされて、そんな悠長なこと言ってられないよ! 別れると言ったら別れるんだ!」
「幸弥……」
幸弥ははっと我に返り、申し訳なさそうに視線を外した。
「ごめん……でも、もう決めたんだ。色崎は、胡蝶蘭大明神への信仰は捨てないって言うから……」
「そうか……。華々しい名前の神様だな……」
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
そうして、その金曜日は過ぎていった。
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