好きだの嫌いだので人生決まってたまるかよ、誰も聞こえない歌じゃあるまいし

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■  土曜日の昼。  学校は休みだったが、色崎舞奈は、制服を着て学校にいた。  人気のない校舎裏。ここでよく、自分の彼氏が、親友と話しているのを知っている。  彼女を呼び出した人物が、小さな足音を響かせてやってきた。 「晃生くん、今日は何の用なの? 幸弥くんには内緒でなんて」 「休日に、悪かったな。今日は、珍妙な生物は連れていないんだな。必要ないからか?」 「何のこと?」 「どうしてそこまでして、幸弥と別れたいんだ?」  二人の間を、冷えた秋風が通り過ぎる。 「……お見通しなのね」 「お見通しだったら、本人に確かめようなんて思わない。そんなに、幸弥が嫌になったのか?」 「……晃生くんは、幸弥くんが好きなタイ人のことは知ってる?」 「今週聞いたばかりだ。最近好きになったってな。それも、色崎の影響だと言っていたぞ」 「そう。でもね、幸弥くん本人も気づいてないみたいだけど、あれ、嘘なのよ」  晃生が顔をしかめた。 「嘘?」 「最近、ていうのが嘘。幸弥くん、結構前に街の喫茶店に私と入ったんだけど、その時の店員さんが例のタイ人女性なの。荒野くんが一目惚れしたのが、すぐに分かった。私が幸弥くんに見つめて欲しいと思ってて、でも全然そうしてくれない見つめ方で、あの人のことを見てるんだもの」 「自覚してないっていうのか? 本人が、自分の一目惚れを?」 「幸弥くん、恋愛に関して決めつけが激しいのよ。彼女がいるのに、他の女の人を好きになんてなるわけがないと信じてるのね。でも、私は、そんな状態で幸弥くんと付き合い続けることはできなかった。だって幸弥くんが可哀想だし、私はみじめでしょ?」 「それで、おかしな狂言を敢行したわけか」 「幸弥くん、優しいから、生半可なことじゃ愛想をつかしてくれないでしょう。頑張ったのよ、これでも」  舞奈は、校舎にとんと背中をつけた。  汚れるぞ、と言おうとして、晃生はやめる。舞奈の唇が震えているのが見えた。 「そうかあ、晃生くんにはバレてたかあ」 「普段の色崎を知っていれば、自明のことだ」 「変だなあ、幸弥くんとは、もっと近くにいたのになあ」
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