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晃生が、胸中で舌打ちしてから、口を開く。
「幸弥に、男まで好きになれと言ったのは何なんだ?」
「だって、タイの人を好きになれって言われて、はいそうですかって好きになる人いる? 別の選択肢を強要された時に自ら選んだものは、自分の意志で選択した道だと思い込めるでしょう」
「幸弥の気持ちや同性愛を道具にしているようで、感じが悪いかもしれないぞ」
「私だって、全方位的に思慮深くて、その上で実効的でなんていられないわよ。これでも、毎日泣きそうで必死なんだもの。全人類的善良という名の無責任で暴力的な思想になんて、殉じられないわ」
「だから極端なんだよ、君らは」と晃生が苦笑した。
「それはそうと色崎、君の信仰する神様は、胡蝶蘭大明神というらしいな」
「……それが何か?」
「気づいて欲しかったんだろう、本当は、自分の気持ちに。胡蝶蘭の花言葉は『あなたを愛します』か。性別も、国籍も、人種も関係なく、あなたを、な」
「……教養があるのね」と今度は舞奈が苦笑する。
「それなのに、本当に別れるんだな」
「それに関しては、他に選択肢がないわね」
「色崎、俺は君のことも大事な友人だと思ってる。俺に、何かできることはないだろうか」
「ありがとう。あなたのそういうところ、とても好感を持っているわよ。でも、この辛さは、友達では埋められないみたい。あなたが友達の私を恋愛対象に見られないように、私もあなたをそういう風には思えないから、どうしようもないわね。新しい恋人ができたら、祝福して。それが一番嬉しいかな」
「まあ、できれば、付き合う相手は人間にしてくれ」
「馬鹿ね」
二人は笑って、互いに手を振った。
晃生は立ち尽くしたままそこに残り、舞奈は去った。
秋風に吹かれながら、晃生は、不思議に思う。
心の中では、舞奈に、好きだと叫んでいた。
学校中に響くような声で、俺と付き合ってくれないかと、愛を告白していた。
けれど実際には、ただ力も意味もなく口から出しただけの、友達として役に立ちたいなどという寝言だけが舞奈に伝わり、それが真実と化している。
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