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秋の日の放課後、ある高校の教室で、二人の少年が話していた。
「いずれ、異性しか愛せないということを、責められたり、罰されたりする世の中になるだろう」
「突然何を言い出したんだ、お前は」
勢い込んで切り出してきた黒髪のおかっぱ頭の少年を、ブルネットの髪を肩まで伸ばしたもう一人がいさめる。
「完全に他人事のようだね、晃生」
「お前はなんで今それを自分事だと思うんだ、幸弥」
「自分事だからさ! 最近の漫画とかでよくあるだろう、たとえば男Aが男Bに告白して振られて、Aが『Bは、もし僕が女だったら受け入れてくれた?』とか訊いて、Bが『いや、俺には好きな人がいるから。性別の問題じゃない』とかって答えたりするやつ」
「ああ、何度か見たような」
幸弥は大仰に腕を左右に広げ、かぶりを振って言う。
「でもね、あんなのは話として全然成立してないんだよ! だってそんな仮定はないんだから!」
「まあそこは、優しい嘘とかかもしれんが」
「何が悪いんだよ、女だけが好きで! 性別は恋愛に重要な要素だろ!? 性別にとらわれないことと、性別をあってなきものとして扱うのは、別の話じゃないのか!?」
幸弥の勢いに、冷静な議論を諦めた晃生は、腕を組んで椅子に座った(長くなりそうだと思ったのだ)。
「で、結局、何が言いたいんだお前は」
「結局、か。そう、結局、僕は、保守的で前時代的な人間なのさ! 男ってのは、同じ国の同じ民族の女と結ばれるのが自然で、普通のことだと思ってる人間なのさ。でもだからって、そうじゃないことを不自然で異常だとは思わない。誰を好きになってもいいのと同じで、誰もを好きになれなくてもいいじゃないか!」
ほとんどヘッドバンキングの勢いで頭を上下させる幸弥に、晃生は合いの手を入れることも断念した。
「聞いてるかい晃生! だいたい、地球上の全人類を等しく生殖可能な対象として見られるってやつの方がおかしいとは思わないか! 一定以上の年齢の相手でないと対象にならないのと同じで、ある種の性別や人種でないと対象にならないことの何が悪いのかと!」
「……性別と年齢は別問題だと思うが。極端な飛躍は、思考が袋小路に入っている証拠だぞ。ていうか幸弥お前、恋愛感情のことを生殖可能な対象って呼ぶのか。引くわあ」
「もう、だいたいそういう感じかなって」
「……お前、彼女がいるのになんでそんな思考になるんだよ」
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