落としもの拾いの有機探査

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 ジンは『星屑拾い(スターダストキャッチャー)号』の外壁を軽く蹴って飛び出した。程なく、姿勢制御装置(スラスター)を吹いて留まる。  自分の呼吸音が耳につく。手足を動かすたび船外作業服がこすれる音が耳に届く。それら以外は完全な無音だ。  ジンは顔を正面に向けると、知らず息を呑んでいだ。目の前に赤く大きく太陽が見えている。瞬かない太陽は背後に永遠の暗闇と数多の星々を従え悠然とそこで燃えていた。地球はもう、少し大きな星でしかない。  地球圏、月の裏に位置するL2(ラグランジュポイント2)コロニーを出発し、すでに五〇日が経過していた。しかも十分な加速を終え、軌道傾斜角の大きな彗星軌道に乗ったところだ。太陽はこれからもっと近くなる。  来ちまったな。ジンは思う。小惑星帯にまで鉱物採掘船が出て行く時代、地球軌道より内側は決して遠い部類ではない。それでも、地球衛星軌道専門の『落としもの拾い』であるジンにとって初めての『遠出』に違いなかった。  ジンは命綱(ライフケーブル)の伸びた方へと振り返る。二つの円筒を蛇腹で繋いだような不格好な宇宙船が太陽光をめいっぱいに浴びて輝いている。左の円筒のこちら側と右の円筒の向こう側では、巨大な幕が張られる時を今か今かと待ちわびて、中央の蛇腹は伸びきる時を心待ちにしているかのようだった。
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