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 日々、母ちゃんと耐えた。  親父がいびきを掻いて眠りにつけば、やっと母ちゃんに学校の話をした。学校で笑ったことがあれば、そのわずかな時間に話をした。  母ちゃんはうんうんと頷きながら聞いてくれたが、いつも目に力がなかった。  あぁ、母ちゃんに学校のことを色々話したいけど、母ちゃん辛そうやな。低学年の俺はいつもそんなことを気にしていた。壊れた椅子に座ってくたびれている母ちゃんの顔を今でも思い出す。  日々続く辛い毎日に、強く生きるしかないと幼いながら決め込んでいた。だが、気づかぬうちに、心の中には黒く滲んだかたまりみたいなものが鬱積していた。  ある日、ふざけていたクラスメートがシャーペンを投げた。後ろを向いていた俺は無防備で、運悪く首にシャーペンが当たった。カチンときた。  気がつくと、そいつを殴っていた。親父がいつも殴っていたからか、殴り方を分かっている自分に驚いた。  次の日から、俺は王様になった。何でもかんでも思うように周りを動かせた。皆が俺に平伏した。親父の世界と一緒だと気づかなかった。まだ幼かった俺は、あれだけ憎くてしょうがない親父と同じ笑い方をしていたことに気づけなかった。  母ちゃん方のばあちゃんが俺を心配してか、俺に習いごとをさせなと金を送ってくれていたそうだ。それを親父がむしり取ったが、残った金を習いごとにあてた。空手、少林寺拳法と習い、そしてそれは逆効果となった。強くなればなるほど、凶暴さだけが増し、やがて辞めさせられた。  九州にいるばあちゃんは、剣道をさせるべきだと母ちゃんに提言したらしい。竹刀でめちゃくちゃに人を叩けるのも楽しかった。だが、習ってきた中で剣道は一番鬱陶しくもあった。 「そんなんは一本にはならんのや。心が入っとらんねや」  剣道の先生はそればかり繰り返した。六年生のやつらより俺のほうが数段強いのに。  それでも、剣道以外に俺はむしゃくしゃしたものを発散できる場がなかった。小言を言われようが、竹刀を振るのは楽しかった。  そんな折に事件は起こった。
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