6/6

60人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
 学校で小暮くんを見ていた。  そのもっと向こうには窓の外に目を向ける京子が座っている。カーテンがそよいで、なびく。京子の黒髪はその風にもなびくことはなかった。京子は、つくづく強い。  授業中、小暮くんに変な様子はない。休み時間も特に一人でいるだけで、何も起こらなかった。全然やられてないじゃないか。そう京子に向かって口を尖らせたが、ひとつ気づいたことがあった。  僕は昼休みに大抵教室で本を読む。もしくは、中庭の鯉や亀を見に行くのどちらかだ。ほぼ、それしかしない。  そういえば、と思う。昼休みに教室にいそうな小暮くんの姿を教室内で見かけない。あまり気にしていなかったけれど、休み時間終わりに校庭で遊んだみんなに遅れて帰ってくる。そこでやっと、僕がゲームの話をしたりするくらいだ。  みんなとドッジボールやらバスケやらをしているものだと思っていた。  昼休み。僕は廊下から校庭の様子を見ていた。途中、みんなとバスケをする京子と目が合った。京子はしばらく僕と目を合わせていた。しっかり見ておけという視線が僕に刺さる。  その向こうで、僕は見たくなかったものを目にした。  笑いながら、みんなが小暮くんにボールをぶつけていた。「眼鏡に当たったら100点」という声が聞こえた。僕は直立して固まっていたように思う。  眼下の小暮くんは、頑張っていた。やられながら、必死に耐えているように見えた。  僕はサッシの縁を強く握り、そこに汗を滲ませた。見たくないけど、見ないといけないと思ったんだ。  後日、京子が稽古後に教えてくれた。 「小暮は強くなりたいとよ。空手やら少林寺やら習ったけど、そこにあいつらがおったからできんかった。剣道しかないと。小暮が強くなれる場は。それなら、こんな生半可じゃだめばい。それでも、あんたよりは小暮の方がずいぶんマシたい」  小暮くんが剣道を習う意味がよく分かった。  何もかもに張り合いなく過ごしていた僕に、ほんのりと小さな火が灯った。  それは正体不明なもので、具体的に何のためにその火が灯ったのか分からない。でも、僕が剣道を頑張らないと、近くにいる小暮くんは強くなれない。それだけは分かった。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加