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 弥鹿杯(みろくはい)という大会があるらしい。まだ習い始めて一ヶ月そこらの僕には無縁だ。そう思っていた。  その大会に出場する選手の選考がこれから行われるらしい。僕はやっとみんなと同じ稽古につけたばかりなので、その選考試合には出ないものだと思っていた。 「山之内、引いてみらんね」  八尋先生からビニールを差し出されて驚いた。 「あ、いや、僕はよかです」  そう断ると、竹刀で頭を小突かれた。仕方なく、紙きれが入ったビニールをくしゃくしゃと漁り、「8」の数字を引いた。  わ、と声がし、窓際にあるホワイトボードに目をやる。江口先生が僕の名を書き込んでいた。隣の「7」には四年生男子の名前が書かれていた。一学年下だけど、僕より背が高い。僕を見て、笑っていた。  京子が僕の隣に立っていた。まだ、くじを引いていない。既に名前を書かれている誰もが、隣に京子が来て欲しくないと思っている。そんな空気が漂っていた。  京子がくじを引いて、隣が空いている個所に「大家」の文字が書かれた。五年生以下が安堵したような笑みを浮かべ、これからくじを引く五人の六年生は顔を引き攣らせているように見えた。  京子は相手なんて誰でも良かったとでも言うように、何の反応も見せないでいた。  三年生以下は参加しないようで、ホワイトボードには十三名の名前が書かれていた。六年生とあたる四年生はかわいそうだと思ったが、五年生とあたる四年生の一人は自信ありげな表情をずっと浮かべている。無論、その一人とは、僕とあたる四年生。田上くんという子だ。
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