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 おいっ、と小突かれて理解した。次は僕の試合だ。  咄嗟に立ち上がると、相手四年生の田上くんは既に帯刀して僕を待っている。ここに立ってみて、初めて小暮くんの気持ちが分かった。もちろん、初めての試合だから勝ってみたい。でも、その思いは「きっと負ける」という思いを下回る。  足が震える。竹刀を強く握れない。  田上くんが一歩、二歩と摺り足で進んでくる。慌てて僕も前へ擦り歩くが、ぎこちない。ちゃんと習ったのに、うまくいかない。田上くんは四年生で、たった一ヶ月僕より先に始めただけだ。なのに、田上くんは落ち着いているように見える。  僕は三歩を歩きながら、そうだよな、と思う。負けるから。敵わないから。そう決め込んでしまっているから、僕は挑んでこなかったんだ。そして、今この瞬間も。  はじめっ!  立ち上がると同時に後退りした。田上くんが開始とともに打ってきたのだ。  必死に竹刀を立てる。竹刀がぶつかる音が響く。押しても田上くんは引かない。  審判の江口先生が厳しい目をしている。京子がこちらを睨んでいる。そんなことが目に入る。集中していないのが自分でも分かった途端、頭に衝撃が走った。  めええぇぇぇん!!  気づくと田上くんが目の前にいて、竹刀の束が鼻先に見える。江口先生たちが勢いよく赤い旗を上げた。  面あり!  何もできなかった。僕が小暮くんに何か言う資格なんてない。ただ構えるだけで精一杯だ。  開始線を挟んで竹刀を構え合う。田上くんの竹刀が揺れている。早く打ちたくて仕方ないというように。 「頑張れっ!」  ふいに、後ろからそんな声をかけられた。小暮くんの声じゃない。京子でもない。……誰だろう?  竹刀を構え、田上くんが反時計回りに動くのについていく。百八十度回ったところで、僕たちが並んでいる白組の面々が見えた。まだ落ち込んでいる様子の小暮くんは声を出しているように見えない。京子は怒ったような顔を僕に向けている。その隣で大きな声で「打ってけ打ってけ!」と、僕に応援の声をかけてくれている姿が見えた。隣のクラスで、幼稚園からしばらく一緒に学校に通っていた古賀ちゃんだった。
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