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古賀ちゃんは、幼稚園でいつも泣いてばかりいた僕を慰めてくれていた。
三年生の頃に六丁目に引っ越してからは一緒に登校することもなくなってしまった。学校でのクラスも一緒にならなかったから、あんまり話すことはなくなっていた。剣道を始めて、古賀ちゃんがいると分かったけれど、古賀ちゃんは僕のことなんか忘れていると思っていた。
「やまのっち頑張れ、前、前!」
嬉しかった。
勝てるわけがない。まだ始めて間もないんだから。
そんな言い訳ばかりする自分にやっと気付いた。それって情けないことなんじゃないかって。
応援してもらえたら、それに応えたい。そんな当たり前のことを僕は経験してこなかった。僕は僕の存在なんてちっぽけなもので、でも、小暮くんを勇気づけたり、古賀ちゃんに頑張れと言ってもらえたり、僕の存在だって捨てたもんじゃないんだ!
左足に力を入れて思いきり踏み出そうとした。僕にとっての大きな一歩だ。
小手ーーー!
その瞬間に田上くんの勢い有り余る小手が僕を打った。
ありゃ、と思わず声が出て、目の前で高々と赤い旗が上がった。
遠く向こうで京子がやれやれと首を横に振ったのが見えた。
僕はあっさりと敗北した。
せっかくやる気の芽が出たが、一秒もなくその芽は枯れた。やっぱり僕はダメなやつだ。とぼとぼと戻る僕へ鬼のような京子の視線が刺さった。
向こう側で田上くんがお祭りのように小躍りしている。やはりダメだった。いざ負けてみると恥ずかしい。自分より下の学年に負けたんだ。正座すると、床がとても冷たく感じた。
全ての試合が終わった。
結局、メンバーに選ばれたのは六年生五人と京子。先鋒から大将までと補欠は後日決まるらしい。同時に個人戦に出場する各学年の代表二人も決まった。まだ始めて間もない田上くんは出場資格を得て、僕へ向けて満面の笑みを浮かべていた。
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