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 夜空に星が四つ上がっていた。  相変わらず迎えの遅い僕と京子のお母さんを、僕と京子と江口先生で待つ。 「あ、あのさ、ありがとう」  京子に小さい声で言うと、京子は星を見ながら応えた。 「よか。おしっこ引っ掛けられるとは思わんかったけん、これは大きな貸しばい」  顔が真っ赤になる。でも、ほんとに京子が機転を利かせてくれたおかげで僕たちだけの秘密でとどまっているのは感謝しかない。 「何でも言うこと聞くけん」  ふふ、と珍しく京子が笑う。 「そんなんあっさり言うけん、山之内は弱かまんまたい。あっさり何でも言うこと聞くとか言うな。もし何でも言うこと聞くなら、お願いやけん強くなり。あんたにはそのチャンスがあるっちゃけん」  言葉の意味はよく分からなかった。  僕の母さんより先に、京子のお母さんが疲れた顔をして迎えに来た。京子は江口先生に礼をして、振り向きもせず行ってしまった。 「自分で決めんしゃい」  ぽつりと江口先生が僕に言った。 「まずは自分で自分のことを決めんしゃい。京子は山之内に強くなってほしいとやろ。小暮にも。それは本人が思わんとなんもならんと。でもな、強うなりたくてもなれん人もおるったい。京子はそれば知っとるけん」  江口先生の目は優しかった。何かを伝えたいような目だった。  何を伝えたいかは分からない。ただ、僕はあれだけ嫌だった剣道をやって良かったと初めて思った。今日だって嫌なことが起こったのにそう思ったんだ。京子に庇ってもらって、これで辞めますなんて言える訳ないって、そう思った。自分の意思でちゃんとそう思えた。あれ、少し成長したのかもしれないって思えたんだ。  よくもまあ、漏らした日にそんなこと思えるものだと自分で笑ってしまう。  星を見上げているうちに母さんがパタパタと駆けてきた。江口先生に二人で礼をする。 「今日はどうやったね」  母さんがいつものように訊ねてくる。 「……ん、今日も嫌やったけど、うんとね、頑張らないかんて、少し思ったと」 「ふふ、そうねそうね」  母さんは自転車のかごに防具袋をそっと置いてくれた。
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