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「神宮小、いまだに素振りやっとう」 「ギリギリまでやらんと負けるち思っとうっちゃない?」  素振りを終えて、竹刀袋に竹刀を入れていると、そんな声が後ろから聞こえた。 「もうそげんに強うないとにな。格好だけは一人前たい」  京子がキッとその声を睨んだ。  大磯小剣道団の面々であった。先ほど、優勝旗に名前が刺繍されていたのがちらりと見えた。強いチームなのだろう。京子の視線に気づき、大磯剣道団はニヤニヤしながら、場を離れた。  京子は傍観していた僕にも同じ目線を寄越した。 「そんな負けたような目すんな」  あたしがあいつらに勝つ。そんな目線に見えた。僕は京子におもらしを内緒にしてもらった借りがある。少しカチンと来たけど、僕も大磯小剣道団へ自分に出来うる限りの鋭い目を送った。  午前で行われた個人戦。残念ながら各学年の代表がことごとく負けていく様を見た。江口先生や八尋先生にあれだけしごかれているのに。見ていて辛いものがあった。  だが、京子だけは別格だった。静かな境内に京子の雄叫びと打突の音が響き渡る。個人戦では、中野くんを破った相手を圧倒し、あっさりと優勝していた。  僕たちを小馬鹿にした大磯小剣道団が、トロフィーを持つ京子を恨めしそうに見つめていた。なんだか誇らしい気持ちになる。僕は何もしてないけど。  京子はというと、トロフィーをさっとお母さんに預け、六年生たちと先生を交えて何やら話しこんでいた。個人戦で優勝した喜びに浸っている様子はない。それどころか、これからが本番で、個人戦は練習だったかのようにすら感じてしまう。 「弥鹿杯の団体戦は福岡の大会で一番権威っちゅうもんがあると」  古賀ちゃんが首を傾げている僕に気づいてか教えてくれた。 「そうなんね。それで先生も先輩たちも気合入っとっちゃね」 「うん。団体戦で優勝した剣道団は神社の神様に讃えられて強く育つって言われると。やけん、他の区からもこの大会には参加してくるとよ。最近は隣の区の大磯小が強いけん、なんとかね」 「へえぇ」  打合せをしている京子や六年生たちの目は真剣そのものだった。主将の梅津くんが大きな声でみんなを鼓舞した。格好良かった。 「……京子は、優勝したいと、思う」  中野くんがぽつりと言った。そりゃ当たり前だろうなと思ったけど、無口な中野くんはそう言ったまま黙ってしまった。
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