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 六年生を差し置いて、副将に京子が入っていた。大将は六年生の梅津主将。  三つの試合場を各校の生徒や保護者が囲んでいる。弥鹿神社は普段見せない大きな盛り上がりを見せていた。  僕や小暮くんは優勝できると思っていた。京子はもちろん強いし、梅津くんも滅法強い。それに、いつものあの稽古を耐えてきてる僕たちだ。勝てないわけがない。  団体戦には勝者数法と勝ち抜き戦という二つの方式がある。弥鹿杯の団体戦は勝者数法を採っている。誰か一人が圧倒的に強ければ勝てる、ではなく、団体の力を試す方式だ。 『一回戦、神宮小対名島小の試合を行います。お互いに、礼』  神社の境内でずらりと五人づつが相並ぶ姿には緊迫感があった。  僕たち神宮小は、この一回戦を見事に五人全員勝ちで収めた。京子と梅津くんは相手を寄せつけないまさに圧勝であった。  驚いたのは、僕自身の興奮度合いだ。自然と手に汗を握っていた。必死に相まみえる勝負は沸騰するような熱を帯びている。  見るだけでも頑張る。それほどの小さな目標しか持ち得なかった僕は、たった一戦を見ただけで興奮に包まれていた。  圧勝した後だというのに、京子の目はギラついている。六年生の戦い方に注文をつけていた。  勝ち進むごとに相手も強くなる。雰囲気だけでもそれは十分に分かりえた。一回戦の名島小とは明らかに姿勢が違うのだ。それでも、神宮小剣道団は京子と梅津くんを中心に勝ち進んでいった。  だが、敗退はあっさりと訪れてしまう。勝ち負けというものは、実に残酷だ。  準決勝の相手は、さっき僕たちを小馬鹿にした大磯小剣道団であった。さすがに優勝しているだけある。稽古に明け暮れたことが分かる防具の褪せかた、居並ぶ後ろには江口先生よりも怖そうな先生。僕ですら、ここが正念場だと感じた。 「前、前っ!」  京子の高い声が境内に響いていた。だが、その声虚しく、対戦表には既に二つの負けが記されていた。「攻めてっ!!」最後に叫んだ京子の声が風に流された瞬間、中堅の六年生は負けた。京子と梅津くんの出番前に、神宮小の敗退が決まった。  京子だけが勝ち、結局は大将の梅津くんまで敗れ、僕たち神宮小の弥鹿杯団体戦は幕を閉じた。  梅津くんが泣いていた。それを同級生の六年生が囲む。背中をさすっていた。 「梅津くん。泣かんといてよ。全力出してないて思ってしまうやん」  京子がそんな言葉を吐いた。  京子は力いっぱいに拳を握っていた。悔しい思いはあるだろう。でも、そんなこと言うなよ。と、僕は思っていた。
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