4/11

60人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
 動いたのは陣だった。  しびれを切らした猛獣のごとく、京子の竹刀を一気に払い、飛び上がった。かかり稽古なのに隙を作らない京子へ、怒りを滲ませたような打突が襲いかかる。  京子は払われた竹刀を戻し、(しのぎ)で受ける。弾かれた陣の竹刀は、ボールのように弾み、くるりと方向を変えて京子の胴へと向かう。たんっ、たーん、と陣が床を蹴る音が響く。京子は手首を返して胴を許さない。  陣が、止まらない。  たんっ! 小手、面と連続で陣の竹刀が京子を襲う。京子が辛うじて防ぎ、面で返すところを跳ねながら陣がいなす。いなした陣がそのまま刀身を返して胴を狙う。が、これも京子が束で弾いて面を穿ちにいく。決まったかと思ったが、陣はこれまた京子の重い打突を払いのけ、逆に小手を狙いに前へ飛びかかる。京子は思わず後ろに飛んで避けた。  雷のような攻防が止まった。互いに一足の間でまた向かい合う。 「なんやねん、この女。ええかげんさらせよ」  小さな陣の声が聞こえた。  その刹那、陣がすっと屈んだように見えた。同時に、何か、した。僕には見えなかった。  京子の竹刀が大きく音を立てた。床に京子の竹刀が転がっている。陣が面を打つと見せかけ、思いきり京子の竹刀を払ったのだ。京子が竹刀から手を離すなど見たことがない。  竹刀を拾い上げようとした京子の脳天に、怒りにまかせた陣の一撃が落ちた。竹刀を握れていない京子が小手で避けるが、その小手に思いきり陣が打突を見舞った。京子の左腕が弾け飛ぶ。そこからは無防備な京子に対し、陣がめちゃくちゃに竹刀を振りかざす。 「止め、止めっ!」  たまらず、というように八尋先生が陣を止める。陣は頭に血が昇っているのか、身体を掴まれても左手一本で京子に襲いかかろうとしている。  最後は八尋先生と中村先生とで羽交い締めにし、なんとか京子に襲いかかる陣を引き剥がした。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加