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「あんた、六年生は稽古前の掃除って何回も言われとろうもん」  京子が陣を見下ろす。  陣は面倒くさそうに垂れを纏いながら、京子に下からガンくれた。 「あ? なんやねんな、女男。俺ぁ、俺の分、メガネとネズミにやってもろうとるわ」  陣が顎をしゃくって僕と小暮くんを見た。 「なぁ、ネズミ?」  陣は僕へ向けて歯を見せた。 「山之内ばい。ネズミって言うな。山之内、あんたもちっとは悔しがれ。こんなんに従うな」  京子が陣の道着を掴んだ。そのまま僕に対しても睨みを利かせる。 「あ? なに掴んでんや、てめえ」  陣が京子の手を捻じりあげる。京子がその手を別の手で押さえ握力の限り掴みあげる。 「こらぁ! なんばしよっとか、貴様らはっ!」  八尋先生が入ってきた途端、二人の絡み合った手を解いた。  ちっ。陣が舌打ちし、二人は離れた。怒られていたのは京子だった。八尋先生が鬼のような形相で京子を怒鳴っている。僕たちは歯痒い思いでその光景を見つめていた。  京子は悔しくないのか。京子の佇まいを見ながら、僕は京子を理解できないでいた。京子は八尋先生を見上げ、拳を握ることも奥歯を噛みしめることもしなかったのだ。しっかりと目を見ながら、怒鳴られ、頭を下げた。 「大家……」  小暮くんが声をかけた。僕も寄った。向こうで平然と陣が準備をしている。 「強くなれ。あんたらは強くなれ。あたしも強くなるけん」  いつもの蔑んだ目はしなかった。僕と小暮くんに小さな声で言い、静かに防具をつけ始めた。  何故、先生たちは分からないのだ。悔しい気持ちが溢れそうになる。でも、京子がそうならば、僕らも同じだ。
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