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 陣は、ただただひどい奴だった。  暴力で人に言うことを聞かせ、罵倒して、馬鹿にし、極めて乱暴な奴だった。  学校でも変わらないらしい。クラスが同じ古賀ちゃんに聞いた。クラスの中でのさばり、弱いクラスメートに暴力を振るうらしい。学校では一足先に大きな問題となり始めていた。 「おい、ネズミ」 「ん?」 「ん? じゃねえよ。誰に口きいてんや、こら」  そう言いながら陣は僕を蹴った。 「俺の胴とか片付けとけ。十秒な」  悔しい。悔しいけど、力じゃ陣には勝てない。僕は口を尖らせて陣の防具袋に陣の面を片付け始める。小暮くんが隣で心配そうに見つめていた。先生たちも気づいているはずなのに、何故注意しないんだろう。僕は不満でいっぱいだった。  陣の防具を片付けてあげると、陣はそそくさと防具袋を抱えて出ていこうとした。 「……ちっ。何やねん、女男。口無しまで何の用や」  そんな声が聞こえて体育館の扉へ目を向けると、出ていこうとする陣の前に京子と中野くんが立ちはだかっていた。先生たちもそれを見ている。 「これ以上は許さんばい。ここはお前の国じゃないけんね」 「なんやねんな。ばい、とか、けん、とか訳の分からんこと言いよって。俺に勝ってから言えや。おい、口無し、お前は何の用じゃ」  中野くんは腕組みをしたまま、黙っている。目だけは普段僕が見ている中野くんの優しい目ではなかった。 「喋られへんねんな、お前。すっこんどれ」  陣はそう言って中野くんも蹴った。血相を変えた京子がたまらず陣に掴みかかる。そこへ、にゅっと長い手が伸びた。  陣と京子が高く持ち上げられる。八尋先生が後ろに立っていた。 「なんばしよっとか、きしゃんらは」  仁王像のように睨みをきかし、乱暴に二人から手を離した。陣が睨み、京子が真っ直ぐな視線を八尋先生に送る。そんな緊迫した空気の中、柔らかな声が外から聞こえてきた。 「ああ……先生。お世話になります。また、うちの雄大が何かしましたでしょうか」  小さなおばあさんが入口に佇んでいる。陣のお迎えのようだ。いつも陣は「迎えはきてる」と言って、先生の静止を振り切って帰ってしまうので、お迎えを初めて見た。おばあちゃんが迎えに来ているんだ。  陣は舌打ちして足早に体育館を後にした。おばあちゃんが何度も何度も申し訳なさそうに江口先生と八尋先生に頭を下げていた。
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