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 僕は、より頑張るようになっていた。  少しだけ、剣道を通じて僕自身が変わっている。ちょっとだけ、階段を昇ってる。そんな感覚があった。  稽古は厳しいし、そりゃどっちかっていうとゲームをしたいし、ほんと言うなら漫画を読んでいたいけど、なんだかんだで僕は剣道に感謝し始めていた。五年生になってから一年間やって良かったと思っていた。古賀ちゃんに中野くん、盟友の小暮くんに鬼みたいな京子と先生たち、みんなと過ごす日々は僕に新発見ばかりを運んでくれた。  それだけに、陣に向けての悔しさが日々膨れ上がる。  雰囲気を悪くし、この神宮小剣道団の素晴らしさをたったの十日ほどで滅茶苦茶に破壊されたように思う。 「おらぁ、めぇえええん!」  今日の稽古でもまた四年生をいたぶっている。 「こらぁ、陣! いい加減にせんかあ!」  八尋先生が怒っても、陣は悪びれもしない。ほんとにこの神宮小剣道団が壊れてしまうんじゃないかとさえ思っていた。 「ねえ、小暮くん」 「うん?」 「……ぼく、陣に勝ちたい」 「……無理だよ」 「無理でも勝ちたか」 「そりゃ僕だって」  小暮くんも最近は頑張っている。きっと僕と同じ気持ちなんだ。それでいて、陣に勝とうなんて……と小暮くんが思う気持ちだってもちろん分かる。でも、京子は僕たちより強いのにきっと僕たちよりもっと頑張ってる。僕はもっとできることがあるはずだ。 「もうすぐまた弥鹿杯の選考試合あるやん? あれ、京子が今度は総当たりでやるっち言いよった」 「そうなん?」 「そこで勝つためにさ、一緒に頑張ってみらん?」  小暮くんは不思議そうな顔をしていた。僕には作戦があった。  向こうで京子が壁に向かって竹刀を構えている。江口先生がもう終わりやぞと声をかけても京子は集中したまま帰ろうとしない。  古賀ちゃんと中野くんは話をしながら帰路についていた。意見を交わし合って、二人も強くなろうとしている。 「小暮くん」 「ん?」 「僕たちは、秘密特訓をしよう」
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