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 最初に挑んだ中野くんが、次に挑んだ古賀ちゃんが、粘りに粘るも陣の前に敗れ去る。それでも、この二試合、陣には焦りが見えていた。自分より下だと決めつけている古賀ちゃんと中野くんに攻められる時間を与えたからだ。  僕は陣との対戦を前に自信を深める試合を終えていた。入団したての頃にあっさりと敗れた五年生の田上くんとの試合だ。  気合が入っているのが自分でも分かった。  いやああああああっ!  僕の雄叫びが体育館の天井に届き、自分の耳に降りてくる。初めて田上くんと試合をしたとき、僕は田上くんの突進に後退りしたのを覚えている。この試合、僕は一度も後ろへ下がることはなかった。  勝負あり!  田上くんはがっくりとうなだれ、京子が小さく「へえ」と呟いたのが、なんだか嬉しかった。  さあ、次は小暮くんと僕が陣に挑む。最後は京子と陣の大一番だ。京子の前に、僕と小暮くんとで陣に土をつけてやる。陣に参ったと言わせてやるんだ。  僕と小暮くんは変わった。負け犬根性で後ろに下がることはもうなくなっていた。陣という黒く高い山へ、僕たちは果敢に挑めたんだ。  小暮くんが雄叫びをあげた。  僕は、初めて目の前にいる人を睨みつけた。  小暮くんの血は滾っていただろう。  僕の血も滾っていた。  小暮くんと僕が挑んだ時、陣はにやにやと笑顔を浮かべていた。負ける訳がないという油断は当然だろう。  だが、どうだ。僕の竹刀が陣に届こうとした時、陣の目は真剣だった。  だが、どうだ。小暮くんの猛獣のような雄叫びに、陣は少しおののいていた。  僕と小暮くんはニ分間やれるだけはやれたと思う。  そして、悔いはない。  京子がすべてを取り返してくれたから。  すべての試合が終わり、陣は小手を床に叩きつけ悔しがっていた。 「どう? 強かったやろ?」  蹲る陣へ京子が上から言った。 「……ちっ。まあ、ええわ。今度は負けへん。一回だけお前の言うこと聞いたろやんけ。掃除せえてか? 稽古で力抜けてか?」 「あたしはそんなこと聞いてない。強かったやろ? あたしだけじゃない。中野も古賀も小暮も山之内も。あんたが思うより強かったやろ?」 「……まあ、あれちゃうか。俺には敵わんけど、まあまあやるやんけっちゅうとこやな」  京子が笑った。 「じゃあ、あたしの願いはひとつ。あいつらとあたしと、そしてあんたの力を貸して。弥鹿杯で優勝したかけん」  陣は反抗するようにゆっくりと頷き、それを先生たちが遠めで見ていた。  体育館の床は、まだ熱気でところどころあったかく感じた。天井の照明は煌々と僕たちを照らし、僕たちは熱い想い胸に弥鹿杯へ挑んでいく。
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