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 弥鹿神社は荘厳な構えで剣士たちを迎え入れていく。鳥居は僕たちを確認するように見下ろしている。その心は強くなったかと。  境内の木々は昨年より葉が薄く、まだ色やいでいないように見えた。  僕にはそう見えた。  僕は多少落ち込んでいた。選抜試合で僕は五人に選ばれなかったのだ。  陣に敗れた僕は結局、同級生には誰一人勝てなかったのだった。小暮くんとの一戦でも、ほんのわずか小暮くんの経験が上回った。 「では、弥鹿杯団体メンバーを発表する。先鋒、古賀。次鋒、小暮。中堅、中野。……副将、陣。大将、大家。補欠として山之内に入ってもらう。いいなっ?」  はいっ!  異論はない。だから、大きな声で返事をした。でもやっぱりメンバーに入りたかった。 「俺が送ってくよ」  父さんが朝ごはんを食べながら、母さんと僕へにこりと笑った。  昨年と違った大きな道をゆっくり、車は進んでいく。母さんが助手席に乗っていて、父兄の連絡網だろうか、熱心にスマホをいじっている。父さんはにこにこしながらハンドルを握っていた。 「今日は出なくとも見てくけん」  僕はミラー越しに合った父さんの視線に、どう返すべきか困った。本音は、メンバーに選ばれ、試合する姿を父さん母さんに見てほしかったから。 「馨、補欠でも選ばれてすごいと俺は思うよ?」 「……うん」 「父さんから見て、馨はすっごい強くなった。どう? 一年やってみて良かったっちゃないと?」  ミラー越しの父さんは優しい目をしていた。いつも大人しい父さんに強くなったと言われたのは、なんだか嬉しい。父さんが僕に何かを託してくれたようで。 「うん」 「父さん母さんも応援するから、しっかり応援ばして。出番のために準備しよう。それが今年の約束たい」 「うんっ」
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