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 特に陣は圧倒的だった。迎えた準々決勝。敵が強くなろうがお構いなしだ。  蹲踞(そんきょ)の姿勢で向かい合っていると、相手は陣より背が高い。それでも、陣の纏う焔のような気は、相手の副将を凌駕していた。  はじめいっ!  立ち上がった瞬間、野獣のごとき雄叫びとともに陣の竹刀という牙が相手を襲う。相手が反応するが、牙はすでに小手に噛みついていた。三名の審判が一斉に赤い旗を上げる。  小手あり!  相手の副将は茫然と竹刀を垂れていた。開始一秒だ。無理もない。  準々決勝までの三戦、陣は相手副将を一分足らずで退けていた。他の剣道団が、京子以外にもう一人強いやつがおると噂しているのが絶えず聞こえていた。あの大磯小もずっと陣を見ていた。 「陣、いけえ!」  そう叫ぶ暇すらなく、目の前の陣は光のような速さで相手の胴を抜いていた。よくもまあ、選考試合で一分もったな、と自分を褒めたくなる。  すでに勝利をものにした僕たちは、大将である京子の試合を流しながら見ていた。  興味は準決勝へ向いていた。あと、ふたつか。補欠の僕でも胸が熱くなっている。  勝負あり、と審判の声が響いた。  京子にしてはやけに時間がかかったな。僕たちはそんなことを思っていた。
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