2/5

60人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
 準決勝の相手は昨年準優勝を成し遂げた箱谷小剣道団。  一筋縄にはいかない相手ながら、二枚看板である京子と陣がいる安心感からか、僕たち神宮小剣道団は勢いそのままに躍動する。  先鋒の古賀ちゃんが相手と引き分け、次鋒の小暮くんは敗れたものの、中堅の中野くんが鮮やかに二本勝ちを勝ち取った。  ここまで一勝一敗一分。  副将の陣が立ち上がる。 「二敗してへんなら、お前ら上出来やわ。決勝もこれで頼むで」  ほんとに腹の立つ関西人だが、陣の言う通りではある。  古賀ちゃんが引き分けに持ち込み、中野くんがきっちり勝ったことで僕たちは決勝進出を確実にした。なんといっても、これから陣と京子なのだ。負けるわけがない。  準決勝の相手だろうと、陣は気負いなどどこ吹く風。相手を威圧するように細かく払いを入れながら右へ左へと躍る。  相手の副将は背が高かった。陣の身長ではかなり飛ばないと面には当たらなさそうに見えた。何かのお告げとでも言うべきか、僕は陣の戦い方を隈なく見ようと思った。こんな背の高い相手に陣はどう挑むのだろう。  陣は獣だった。  相手が大きかろうとお構いない。ゾウやキリンを狩る獅子そのものだ。  陣は太陽を背に跳ぶ。陽光を切り裂くように陣の竹刀が相手の面を斬った。  面ありっ!  鮮やかに旗が三本上がる。  面金の隙間からぺろりと陣が舌を出す。  二本目っ!  審判が声を上げた瞬間、陣は更に飛び上がった。相手の方が背は高いのに、空から陣が見下ろしているようだった。しっかりと僕は目に焼きつける。その残像は動けない相手の脳天を見事に打ち砕いた。  面あり。  審判ですら溜息をつきそうな、あっという間の勝負あり。  この準決勝も、陣は圧倒的に瞬間的に勝ってしまった。 「おい、負けたらお前大将変わりますって言えよ」  試合を終えて座った陣が薄ら笑いで京子に言う。京子はまたそれを無視した。いや、その元気がないように見えた。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加