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僕たちは離れたところで泣いている京子を見て立ち尽くしていた。
ニ勝ニ敗一分と並んだものの、本数差で僕たちは決勝に駒を進めていた。でも、とても喜ぶことはできなかった。
僕も小暮くんもちゃんと理解していなかった。京子は怪我をしたのだと思っていた。
意外だったのは、立ち並ぶ僕たちの列に陣もいたことだ。陣も言葉を発さずに遠く京子を見つめていた。唇を噛み締め、悔しそうに京子を見つめていた。
「……大丈夫かな、京子」
怪我をしたと思いこんでいた僕は思わずそう口にした。古賀ちゃんと中野くん、小暮くんが返す言葉なく僕を見つめる。ふと、陣の口が開いた。
「大丈夫とちゃう。ほんで、もう言うてやるな。放っといたれ」
小さな声だった。いつもの攻撃的な陣とは明らかに違っていた。
京子はお母さんや江口先生に連れられ、弥鹿神社を後にした。僕たちの横を通り過ぎるとき、京子が泣きながらごめんと言ったように聞こえた。僕は何も言ってあげられなかった。
僕たちは本殿前の石段で一列に並んで座っていた。決勝に進んだというのに、僕たちは負けたように俯いていた。よほどショックだった。
そんな僕たちの耳に、聞き間違いかというとんでもない声が向こうから届いた。
「さっきの、血出とったやろ? あれ、生理ばい、生理。生理女」
「マジで? 初めて見た。きたねえな、なんか」
顔を上げると、大磯小剣道団が二人歩いていた。明らかに京子のことを話している。僕は普段、怒ることはない。我慢して過ごす。その僕の髪が逆立ちそうになった。
と、僕たちが並んでいた列の中から一人が飛び出した。
陣だった。
「やばいっ!」
古賀ちゃんが後を追う。慌てて僕たちも立ち上がり、続いた。
陣が跳んだ。陣は明らかに二人へ殴りかかろうとしていたのだ。なんとか間に古賀ちゃんが割って入り、僕と小暮くん、中野くんが飛びかかる陣を後ろから必死に抑えた。
「お前ら、さっきのこいつの声聞こえんかったんけ? こいつら、殺す」
意外だった。
僕たちは暴れる陣を必死に抑えつけ、騒ぎに気づいた八尋先生に陣を託す。大磯小剣道団の二人は、こちらに驚きつつも鼻で笑うようにしながら去っていった。陣は八尋先生に抑えられながら、牙をむくように大磯小の面々を睨み続けていた。
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