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 入らされた。  端的に言うと、そうだ。  五年生に進級したとき、僕は剣道のことなんてすっかり忘れていた。いつものようにゲームをしていると、突然テレビ画面が消えた。 「んあぁ、なんばすっとね」  振り向いた先に、禍々しいオーラを放つ母さんがリモコンをテレビに向けていた。ゲームのボスキャラをはるかに凌駕している。 「馨は五年生になったらやらないといけないことがあります。何でしょうか」  まだリモコンを構えたまま、無機質な言い方が恐ろしかった。でも、なんだったっけ。 「く、公文? だっけ?」  ぴくりと母さんの眉が上がる。どうやら間違っている。 「もういいわ。出かけるわよ」  リモコンをダイニングテーブルに叩きつけるように置いた。ひぃ、と声が出そうになって思い出した。そうだ、三ヶ月前にも似たようなことがあって、連れて行かれたところがある。  車で到着したのは前島武道具店というお店だった。店内に入ると畳が湿ったような匂いがたち込めた。奥でおじいさんが微動だにせず、こちらを見ている。なんと嫌な空間か。隣がよく行くゲーム屋さんというのも皮肉なものだ。 「竹刀だけは自分で用意していかないかんけんね。今日買っとこう」 「……はぁい」  もう、無理だと思った。観念した。  あとは、さっさと選んで嫌な空間から早く出よう。家に帰ってゲームをしよう。そう思って、大きなポリバケツのような容器に入れられた竹刀を見た。一番手前の竹刀を手に取った。 「……帯刀してみんしゃい」  ふと、店の奥から店主の老人が声をかけてきた。母さんもそちらに目をやる。 「剣道ば始めるとね。それやったら、竹刀ば左手に持って左腰にあててみんしゃい」  のっそりと老人は僕の前に歩いてきた。 「その竹刀ば、ほれ、左腰に据えてみんしゃいよ」
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