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いやぁぁぁあああ!
互いに立ち上がると、激しく古賀ちゃんの竹刀が牽制される。小刻みな相手の払いが、右から左から、上から下からと襲ってくる。
っしゃああああ!
古賀ちゃんも負けていない。
独特のリズムで古賀ちゃんは相手のリズムを読もうとしている。得意技に繋げるためだ。
古賀ちゃんの得意技は出小手。相手の出合い頭を穿つ小手だ。
それを出すため、冷静に相手の払いをいなし、左へ左へと旋回する。
相手のリズムが上がる。かっ、かっ、かっ、かっ。素早いリズムで古賀ちゃんの竹刀が払われ始める。二人が円を描く速度を速めていく。
きいやあああ!
くる! 相手の竹刀が強く古賀ちゃんの竹刀を払ったと同時に大きく担がれた。担がれた分、相手の小手が後ろに隠れる。古賀ちゃんは得意技である出小手のタイミングを逸した。しかも、相手が面でくるのか胴でくるのか、読めない。相手は竹刀を担いだまま、古賀ちゃんの方へ跳んできた。
勇気を出して古賀ちゃんががら空きの胴を打ちにいけば、もしかしたら先に届いたかもしれない。だが、古賀ちゃんは堅く得意技にこだわった。
相手の竹刀が古賀ちゃんの間合いを越えたところで一気に振られた。
面か! 古賀ちゃんがやっと出てきた小手を狙う。が、窮屈な体勢に持ち込まれた古賀ちゃんの小手が相手の面より一歩遅い。
古賀ちゃんの面が先に斬られた。相手を示す赤い旗が一斉に三本上がった。
面ありっ!
古賀ちゃんが俯き、対照的に大磯小剣道団側は大いに沸いた。
「いいぞ、いいぞ。惜しいぞ、古賀」
八尋先生がそんな声を出した。古賀ちゃんがその声に大きく頷く。
剣道では先鋒から大将までどの順番で選手を置くかは重要だ。それは勝ち抜き戦より勝者数法の方がより戦略面を試される。
大磯小剣道団はおそらく先鋒に賭けてきた。大将の次に強い選手を先鋒に置き、早いうちにプレッシャーを与えてきたのだ。
そんな強い相手に、古賀ちゃんは最後まで耐えに耐えていた。僕たちも古賀ちゃんに魂を送ろうと、強く拳を握っていた。
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