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準決勝の後、京子を馬鹿にした大磯小の二人がいた。陣が襲いかかった二人だ。僕はその場面を思い出していた。今思い出しても血が沸くような怒りがこみ上げてくる。
目つきの悪い二人だなと思っていた。その目つきを見ながら、怒り狂う陣を抑えながら、僕は垂れに刻まれた名前をチラリと見た。確か「渡辺」「大原」ではなかったか。
僕は試合場に目を移す。中野くんと相手が開始線に戻り歩き、中野くんの背中で相手の名前が見えない。奥に座る副将と大将の垂れが見えた。副将、すなわち僕の相手は小柳という名のようだ。大将の名は「渡辺」だった。そして、中野くんの背中が逸れ、相手中堅の名が見えた。「大原」と書かれている。
嫌な予感がした。
中野くんが試合を押す。まさに圧倒していた。相手の「大原くん」は防戦一方だ。昨年、京子しか勝てなかったチームとは別のチームのようだ。
相手が長身の中野くんを引き剥がすため苦慮しているように見えた。上から中野くんが押さえつける。相手の大原くんは引き技を放ちたくても打てる態勢をとれない。嫌な予感は杞憂に思え、胸を撫で下ろそうとした時だった。
中野くんの右膝がわずかに落ちた。
小手えぇぇぇぁああ!
白い旗が二本上がる。大磯小がわっと声を出し、大原くんは拳を握った。中野くんが右足を引きずっていた。
「あいつ。中野の足、思いきり踏みよった。わざとかどうか知らんけど」
陣が唇を噛み締めている。
陣でもハッキリと分からないのだから、故意か否かは知る由もない。蟻ほどの油断と言うしかないのか。
静かな中野くんらしく、少しだけ右足を振って、また土を踏みしめた。泰然自若。大原くんより早く開始線で竹刀を構えた。江口先生が手を叩く。
だが、そんな中野くんへ今度は卑劣な剣が向けられることとなる。
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