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 中野くんも僕たちも首をひねるような攻撃が続いていた。  相手の大原くんは、とても通じそうにない面を打ち続けたのだ。  時間にして一分ほど。背の高い中野くんの面へ無理矢理な攻撃が続く。囮として胴抜きを狙っているのかと思いきや、その様子はない。  と、中野くんの動きが止まった。そこへ大原くんの竹刀が襲いかかる。中野くんは辛うじてその打突を防いだ。  中野くんがとても苦しそうに動いている。キレがない。  なんだ? どうした?  やめっ!  審判が試合を止めた。  審判が大原くんに歩み寄る。竹刀を渡すように言い、審判は竹刀を確認し出した。竹刀に厳しい目を向けた審判が大磯小側へと竹刀を持っていく。強面の大磯小監督がペコペコと頭を下げ、その竹刀を別の竹刀と取り替えた。  なんのことだか分からないまま、審判が中野くんへ心配そうに声をかけている。中野くんはしきりに首を横に振っていた。あまりにも否定しているような中野くんへ、審判は仕方なさそうに頷き、やがて大磯小の大原くんへ反則の旗を指した。 「竹刀にささくれがあったんや。ほんで反則っちゅうこっちゃ。……それはまあ、ええとしてやな。……あいつ、ちゃんと喋ってんのか?」  陣が怪訝な視線を中野くんへ向けた。 「どういうこと?」 「なんで分かれへんねん、お前は。ささくれが目に入ってないかて審判は心配してくれてんねや。それに対して、無理して無口のまんま首だけ振っとるんちゃうやろな、あいつは」  なるほど。陣に言われて初めて意味が分かったと同時に、陣の言う心配もその通りだと思った。そして、その予想は的中してしまう。  明らかに動きが悪くなっていた中野くんは、終了間際に一本を取られてしまったのだ。  勝負ありっ  中野くんは俯き加減でこちらへ戻り、そっと面をとって、目のあたりを気にしていた。たまらず、後ろで見ていた京子と陣、それに先生たちが中野くんへ寄る。隣の僕にもちらりと見えた。痛々しく、中野くんの白目にささくれが刺さっていたのだ。 「おっまえ、なんで言わへんねん。頑張りどころ、そういうとこちゃうで」 「中野、よく頑張ったけど、それはいかんばい」  陣と京子の声に中野くんはうなだれた。そっと京子が中野くんの背中を叩いた。それでもよくやった、と。だが、僕たちにとって大きな大きな二つ目の敗北が記された。
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