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 よく分からなかった。とにかく左手で竹刀を持ち、腰にあててみた。何も感じなかった。構えて振ってみたら良いのだろうか。前に観た剣道の稽古をなんとなしに覚えてはいる。僕は、竹刀に右手も添えようとした。 「構えんでよい。竹刀がぼっちゃんを嫌がりよる」  老人の声が沈むような低い声に変わった。僕は何もされていないのに、思わず仰け反っていた。  不思議だった。この老人に斬られる。そう感じたのだ。 「どれどれ、ここらへんが良かっちゃなかろうか」  老人はふいと笑い、竹刀を漁り出した。 「お母さんよ、ぼっちゃんは何年生ね」 「五年生になりました」 「ほっほ、そりゃ五年生にしては小さかね。それでも、剣の道には関係なかよ。それば学んでいきんしゃい。ほれ、これを帯刀してごらん」  老人は僕にそっと竹刀を手渡した。さっきの竹刀と何も変わらない。ただの竹だ。左手に持つと、驚いた。先ほどの竹刀と重みが違う。重さじゃない。重みだった。 「竹刀も竹の刀なり。主人に仕え、弱きを切る。弱気を斬る。ぼっちゃんにはその竹刀がよかろう」  腰に据えた。服を着ているのに、竹の冷たさが服を通り抜けて皮膚に届いた。ずっしりと竹刀は重みを僕に与えた。しっかり腰に据えようとすると、自然と背筋が伸びた。  強くなった気がした。
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