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 京子の心配通りの展開は更に進んでいた。  小手や胴を狙ってもすぐに竹刀で受けとめられ、徐々に返し技が襲ってくる。 「小柳、打ってけ!」  趨勢に大磯小剣道団も気づいていた。これだけ背の低い僕には、小手と胴しかない。  皆、そう思っている。  あの小さな子は最初すばしっこさでかき回し、よく頑張っていた。だが、小手と胴だけではどうしても分が悪い。おそらく大磯小がこの試合で勝利を決める。  誰もがそう思い始めていた。 「山之内、前出よう! 攻め続けよう!」  京子の悲痛な叫びが届く。  僕は小手と胴を狙いながら、必死に防御に徹する。それしかない。いや、それで良いのだ。  前のめりになっていた神宮小剣道団の面々は、僕の劣勢を見ながら必死に声を出していた。その中に一人、声を出さなくなった者がいた。小暮くんだ。それに古賀ちゃんが最初に気づいた。 「小暮っち、何かウキウキしとらん? やまのっち負けちゃうぞ、このまんまじゃ」  古賀ちゃんが不思議そうに訊ねた。 「ううん。たぶん、負けないよ。山之内くんには作戦があるんだ。最後に山之内くんは跳ぶんだ。ずっとこの展開を予想して山之内くんは練習してきたとよ。陣との選考試合でも結局山之内くんはあの技を出さんかった。試合前に言ったと。あと十秒になったら合図してって。やけん、そこでみんなも一斉に叫んで。跳べ! って」  古賀ちゃんが不思議そうな顔をする一方、反対側の中野くんが頷いた。その向こうから陣が小暮くんへ首を伸ばす。 「おい、小暮。それどういうことや? あいつ、まさかいっちょまえに布石うっとるちゅうことか?」  小暮くんは大きく頷いた。 「そのまさかだよ」  試合は十秒を切った。同時に小暮くんが口の横に両手をあて、大きく口を開いた。
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