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──頼んだ! そう言われるのは心の底から嬉しかった。
「陣、頼んだよ!」
「陣、頑張れ!」
「陣、頼む!」
あれだけいびった奴らが俺を応援してくれている。初めての感情だった。俺が勝ちたいんじゃない。俺はこいつらを優勝させる。
あんな女男の京子が体調を崩してまで戦っていた。血を流した。あれを見て、俺は心が震えた。これが剣道か。だから、俺じゃなく京子が大将なのだ。それをやっとやっと理解した。それは、間違いなくこいつらのおかげや。
頼んだ!?
当たり前や!
蹲踞して剣先を向けると、相手の力量が分かる。聞けば、ずっと優勝している剣道団だ。その大将だけある。強いのが分かる。京子と同等か。
でも、勝つしか頭にない。
京子の代わりに出た山之内が勝ったんや。ネズミのくせに、信じられないほど跳びやがった。あの打突を思い出せ。古賀の、小暮の、中野の、山之内の、あの打突に震えろ。俺は、こいつらの大将や。
はじめえぇっ!!
きぇええええええええ!!
相手から攻めてきた。面金の間から顔が見えた。勝ち気な顔をしてやがる。
打突が重い。上手いフェイントに、強い払い、長い間合い。一級品だ。かろうじて受ける、避ける。俺を斬ろうとする竹刀の音が矢継ぎ早に襲ってくる。
相手の速攻を止め、やっと自分の間合いに落ち着く。剣先を小突き合う音と、後ろからの声援が混じる。互いに時計回りに動き、体が入れ替わった。あいつらの顔が見えた。必死に俺なんかのために声を送ってやがる。
無口な中野が両手を添えて声を張り上げてやがる。目も痛いだろうに。山之内と小暮が手を上げてやがる。地味キャラのくせに、俺なんかに向けて熱くなってやがる。そして、京子。お前の無念を晴らす。
勝つ。お前らに優勝を届ける。前へ。前へや。
左足の爪先に力を込めた。ふくらはぎが収縮する。相手の剣が止まる。警戒しても無駄だ。俺は強い。大阪の、いや、今は神宮小の雷、陣雄大だ。
風が起きる。俺が生んだ風だ。俺を押せ。剣が走る。雷の如く、貫け。相手は面を防いだ。早い防御だ。その間、一秒足らず。剣を返す。
お前はさぞ強いやろな。けど、どうや。これについて来れるか。雷の胴。
ぱああぁぁぁぁん
何かが弾けるような音とともに一斉に白い旗が三本上がった。
疾風迅雷。
神宮小剣道団、大将、陣。
胴あり、一本。
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