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 俺はもともと強い。勝てない相手など、そもそも今までにいなかった。ただ、俺を戒めるためだと思っていたが、大阪の道場ではいつも言われていた。 「雄大、強さに驕ったらあかんぞ。お前より強いのは九州にでもいったらなんぼでもおる」  俺への嫉妬か何かだろうと意にも介さなかった。  だが、どうだ。こんな田舎に来たというのに、たった二ヶ月そこらで出会うのは強いヤツらばかりだ。京子しかり、そして、この目の前にいる大磯小の大将しかり。  五分五分だ。こいつの竹刀に触れた時、そう思った。すこし、やべえかもとさえ思った。  それが、どうや。あっさりと初太刀で一本だ。  開始線に戻りながら考えた。俺は剣道に関しちゃアホとちゃう。相手の力量を測ることはできる。構えた時まで互角だったはずだ。相手のヤツに隙はなかった。そう。俺が強くなったのだ。それは、あいつらを見てからだ。あいつらが必死に俺へ声援を送る姿を見て、俺は相手を上回ったんや。  背負うものってやつが、俺を強くした。  試合はそこから一進一退となるも、わずかに俺が押していた。俺の剣先は何度も相手の小手、面、胴へと届いている。あと数センチの深ささえあれば一本や。  俺自身はもちろん、誰もがそう思ったはずだ。その時だった。相手大将の渡辺は人知れず笑っていた。  なんや?  中途半端な面を打ってきよった。難なく捌いて鍔で競り合う。特に押してもこない。俺から引き技で離れようとすると、ついてくる。  訝しげにこの大磯小大将、渡辺の顔を覗くと、目が合った瞬間に蛇のごとく笑った。 「おい、お前さ」  鍔迫り合いしながら話しかけてくる。試合中やぞ? 決勝の大将戦やぞ? 頭おかしいんか、こいつ? そう思った途端、渡辺の口から予想もしない言葉が発せられた。
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