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──弥鹿神社は徐々にいつもの姿を取り戻していた。
試合を終えた試合場にはすぐに玉砂利が敷かれ、ちらほらと参拝者の姿が見える。
僕たちは境内の隅で三人の先生を前に整列していた。首からは昇った陽光に輝く銀メダルがかかっている。
江口先生の話を聞きながら、陣はずっと泣いていた。
あの瞬間、陣が見せていた背中は、この神宮小剣道団に入ってきたばかりの尖ったものと同じだった。なんでもかんでも、気に入らないものにガラスを突き刺すような。
「いかんっ!」
江口先生があげた声が突然の風に流され、陣の剣先は相手の渡辺くんの喉を突いた。
小学生は禁止されているその突きは、幸い陣の技術によりキチンと突き垂をとらえたことで渡辺くんは怪我などには至らなかった。だが、故意の突きと判断され、陣は二回目の反則を宣告された。合わせて一本が渡辺くんに与えられ、同時に陣は力が抜けたようにその場にへたりこんだ。
僕たちの決勝戦はこれで幕を閉じた。
陣は泣きじゃくった。土に両膝をつき、声をあげて泣いた。
「俺のせいや。すまん。ごめん。みんな頑張ったのに、俺のせいや。ごめん、ごめん……」
陣は渡辺くんのことを何も言わなかった。
僕は陣がけしかけられたのではないかと今でも思っている。たぶん、みんなも。
京子は泣きじゃくる陣をじっと見つめていた。京子は最後まで陣に泣くなとは言わなかった。京子もひとつ大人になっていく。
首から提げられた銀メダルが空気を読まずに光っている。泣きじゃくる陣や決勝に出られなかった京子は悔しいだろう。でも、僕は誇らしかった。きらりと光るメダルが純粋に嬉しかった。僕や小暮くんはいつか、京子や陣と同じ感覚を持てるだろうか。その時は僕たちはみんなで輪になって喜びを分かち合うのだろう。
楽しみだ。
「わしは、ようやったと思っとう。それぞれが課題を持って、また夏の大会に挑むけん。それまでいつも以上に猛特訓でいくばい」
江口先生が口角を上げて言い、みんなが苦笑いを浮かべた。
八尋先生と中村先生が泣き止まない陣を無理矢理担ぎ上げた。嫌がる陣の顔はまだ涙でぐしゃぐしゃで、その中に笑顔が宿っていた。
神宮小剣道団はこれからまた、新しいスタートを切る。
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