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 体育館の表口は閉じられている。  裏に回ると、暗い渡り廊下の先にぼんやりと漏れる明かりがある。ところどころ台風被害で吹き飛んでしまったトタン屋根の下、のそりと歩を進めた。狭く漏れる明かりが逆に迫ってくるようで、後ろずさりしそうになる。お母さんの膝に背中が当たった。 「ほら、もう五分前よ」 「心臓のところがきゅって締まっとう感じがする」 「じゃあ明日のおばあちゃん家は行けそうになかね」  ……むぅ。仕方なく歩幅を大きくとる。  体育館には既にほとんどの団員が集合していた。垂れや胴を各々結んでいる。そそくさと隅っこで防具袋を開き、垂れや胴を取り出す。はあ、と大きな溜息を吐き、観念して垂れを巻く。ぎこちない手つきで胴紐を胸乳革(むねちかわ)に通したところで、そっと母さんが体育館を後にしたのが見えた。  やれやれだ。  床がまだ冷たすぎて、向こう脛がひりひりする。奥で正座していた江口先生が立ち上がり、皆が整列し始めた。  この小さなざわめきが苦手だ。誰もおしゃべりしているわけではない。きんと静まり返る体育館の壁や天井に、摺り足の音が無数に反射して起こるさざめきだ。  京子だけが先に整列して、ひとり目を閉じていた。 「山之内、はよせんね!」  江口先生の隣に立つ八尋(やひろ)先生が、床で竹刀を鳴らした。八尋先生は巨人のようにでかい。顔も怖い。ゲームの敵ボスの百倍恐ろしい。 「ひい、ごめんなさい」  みんながこちらを見てくすくすと笑った。京子だけは前を見たままだった。
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